学生教育とイノベーションの創出を目的とした中長期研究インターンシップ<修士・博士・ポスドク対象>を推進する協議会です。

井原 賢

健全な水環境の保全と、水資源の質向上を目指して

かつて、我が国では経済成長に伴う水質汚濁が深刻化して、ヒトや生態系への影響が懸念されるようになり、このような水環境問題を改善するため下水道の整備が進みました。従来の下水処理はBODやSS、窒素、リン、大腸菌群数などの項目の除去を目的としており、その結果、河川や湖沼の水質は大幅に改善しました。しかしながら、近年、下水処理場の処理水から生理活性が高い(=人体に強く作用する)状態の医薬品成分が見つかっています。環境水中に存在する医薬品成分は、どのような影響を生態系に与えるか不明なうえ、残留量の基準や汚染防止の法律はありません。また、薬剤耐性菌が国内外の河川などから検出される報告が相次いでいますが、実態はまだまだ十分には調査されていません。こういった問題に注目し、人々の健康や生態系に被害が出る前に対応できるよう研究しています。

図1

環境中に医薬品成分流出の恐れ

下水処理場からの処理水は河川へ放流されますが、しばしば、その下流域に浄水場が位置するケースがあり、水道の原水として下水処理水が意図せずに使われてしまうことがあります。また、農地や畜産地からの排水も河川に流れ込んで水道原水に含まれている可能性があります(図1)。人体や生態系への影響が大きい重金属や農薬、ダイオキシン類等の環境汚染物質は環境中での基準値や水道水の基準値が設定され監視対象となっています。その一方で、病院や一般家庭、農地や畜産地から下水として流れ出た水中には医薬品成分が含まれている可能性が大きいものの、生態系への影響の評価は十分になされておらず、水環境中での濃度を規制する法体系も整備されていないのが現状です(表1)。

 

 

表1

 

医薬品成分の実態調査

人体や生態系への影響を判断する情報が乏しい環境水中の医薬品成分について、生理活性を包括的に、そして実験室でも測定して分析、評価できる簡便な方法を開発することが、研究目標のひとつです。環境水中の医薬品成分を測定する方法として取り入れている「TGFα shedding assay」は、細胞膜上のGタンパク質連結型受容体(G protein coupled receptor: GPCR)を標的としたGPCR薬の生理活性を簡単に検出できる in vitro アッセイです。私は世界で初めて、このアッセイを日本の下水や河川水で適用し、GPCR標的薬の生理活性を調べました。その結果、高血圧や狭心症、アレルギー性鼻炎などの治療薬の成分が見つかりました。これらの医薬品は1)中枢神経系にも作用すること、および2)GPCRの遺伝子が人を含む哺乳類だけでなく魚類等の高等生物やミジンコ等に至るまで非常によく進化的に保存されていることから、人以外の水生生物の行動への影響が懸念されます。

 

低濃度の医薬品成分で異常行動

医薬品由来の成分がどの程度の濃度であれば人体や生態系に影響がないのか。逆に、どのくらいの濃度を越えると危険なのか。定量的に調べる必要があります。そこで、GPCR標的薬のほか、抗うつ剤といった日本国内で多く処方される医薬品成分が水生生物の行動に与える影響を見るため、魚類の行動を解析する研究者と共同で研究しています。これまで、特に抗うつ剤について、魚の成長を阻害したり、死に至らしめたりする濃度よりも、ずっと低い濃度で行動異常を引き起こしていることが明らかになっています。私は共同研究を通じて、多数のGPCR標的薬、抗うつ剤について研究を進めて、異常行動を引き起こさない医薬品成分の濃度を見極めることで、下水処理で要求される残留成分の基準を決められると考えています(図2)。

 

 

図2

 

薬剤耐性遺伝子の拡散にも注目

環境水からは、院内感染の問題として議論される薬剤耐性菌や薬剤耐性遺伝子も見つかっています。薬剤耐性菌は他の多くの細菌とともに下水処理過程で物理的に除去または不活化(殺菌)されますが、「薬剤耐性遺伝子」は不活化した菌体の中でそのまま残り、あるいは菌体の外へ放出された後も物質として存在し続けると考えられます。下水処理場には抗生物質がある程度の濃度で恒常的に流入することを考えると、それが選択圧となり、下水処理過程でこれらの遺伝子を取り込んだ新たな薬剤耐性菌が生まれる可能性があります。また、薬剤耐性菌や薬剤耐性遺伝子が下水処理場から河川等へどの程度流出しているかの情報もまだ十分ではありません。そこで、薬剤耐性菌や薬剤耐性遺伝子の下水処理過程および河川環境中での拡散について詳細に解析したいと考え、次世代シーケンサーを用いた大規模検出系を使った研究に着手しています。

安心できる水環境のために

人の健康や生態系の維持にかかる問題は、被害が顕在化する前の段階で予防的対策を講じるべきです。環境水中の医薬品成分が生態系に及ぼす影響は、分子、細胞、そして個体と様々なレベルで現れます。そのため、環境工学だけではなく、生物学、水産学、分子生物学、薬学、医学といった幅広い分野の研究者と協力して、行政や立法機関が対応策の根拠とできるような科学的エビデンスを積み重ねたいと考えています。

 

 

研究室HP

http://www.eqc.kyoto-u.ac.jp/prediction/

主要論文

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