特別講演「量子技術イノベーションと人材育成―展望と課題」 開催報告

5月24日に開催されたC-engine第10回通常社員総会後に、「量子技術イノベーションと人材育成―展望と課題」というタイトルで、大阪大学大学院基礎工学研究科 藤井啓祐教授に特別記念講演を行っていただきました。量子コンピュータの研究に取り組んでいらっしゃる藤井先生から、量子コンピュータの現状や先生方の人材育成への取り組みについてご説明いただきました。

尚、C-ENGINE協議会会員、講演会申込者及び参加者に限定で動画の配信を行なっております。

動画視聴をご希望の方は、IDMポータルの「事務局からのお知らせ」より:

▶ C-ENGINE特別講演「量子技術イノベーションと人材育成―展望と課題」藤井啓祐先生/大阪大学

VIDEOリンクからご視聴ください。

*IDM未登録の学生様はこちらからご登録いただけます。

●参加学生による要約

・量子コンピュータは、0か1かの古典ビットではなく、0と1が重ね合わせ状態にあり確率論的に記述される量子ビットを、情報の最小単位としている。研究機関だけでなく、大手企業やスタートアップ企業などが研究に取り組んでおり、世界中で最先端の技術開発が進んでいる。日本でも2023年3月に国産量子コンピュータ初号機が稼働開始した。

・量子コンピュータの活用が期待される分野は大きく2つに分けられる。1つ目は触媒開発や新機能材料、創薬など、量子力学を必要とする分野である。2つ目はセキュリティやAI、金融など、数理的構造が量子力学と相性のいい分野である。

・2014年にGoogleが量子コンピュータ開発に参入して以降、エンジニア領域での量子コンピュータ開発が進み、スーパーコンピュータの計算速度を上回るなど進歩が著しい。理論的に性能が保証された大規模な誤り耐性量子コンピュータの開発だけでなく、ノイズを含むものの小・中規模な量子コンピュータの応用研究も進んでいる。

・量子コンピュータの分野は新しいため、プレイヤーがまだ足りていない。大阪大学では量子ソフトウェア研究拠点として、アカデミアと産業界が協力して研究・社会実装を進める体制を整えており、アカデミアの基礎研究からできたアイデアを発展させ社会実装することを目指し、藤井先生による量子ソフトのスタートアップ企業を立ち上げた。

・量子コンピュータにはアプリケーションの不確実性に加え技術的な不確実性がある。しかしこれらの不確実性は世界のプレイヤーに平等に存在しており、これを悲観的にとらえるのではなく、パラダイムのリセットのチャンスと捉え、新たなモノづくりに挑戦する雰囲気作りが重要である。

・大阪大学が主催する量子ソフトウェア勉強会は、企業の担当者にとっては量子コンピュータに興味を持つ全国各地の学生との交流のきっかけとなり、学生にとっては量子コンピュータの社会実装や企業側の取り組みを知る機会になっている。

・高校までのカリキュラムで取り扱わない量子力学を身近に感じてもらうために、量子コンピュータの回路最適化をモチーフにしたゲームを開発するなど、人材育成やアウトリーチに取り組んでいる。

参加学生からの感想

量子コンピュータには不確実性があるものの、それをリスクではなくチャンスと捉えて挑戦する雰囲気づくりを目指されていることが印象的でした。

また量子コンピュータ研究には研究機関だけでなく産業界からも多様な主体が参入しており、最先端を追い求めて日々発展するだけでなく、様々な応用、社会実装が模索されているという現状がわかりました。最先端であることのみに価値を見出す競争ではなく、生み出された技術やアイデアに対し適宜価値を見出していく成長の姿勢が、技術開発や研究には必要だと感じました。

加えて量子コンピュータの研究においては、持続的な人材育成や、多様な背景を持つ人材の参入が必要であり、その取り組みについても知ることができました。これまで機会や情報に対して、「提供する→される」の「企業→学生」、「学生→企業」の関係に関して、共通するテーマや課題から企業と学生が相互に理解し合える交流の場や、その媒介を担える組織の重要性を感じました。(京都大学大学院農学研究科修士1回生Mさん)

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