博士学生が自分の研究の価値を説明できない理由

― それは能力不足ではなく、「翻訳」の問題
研究テーマは説明できる。背景・先行研究との関係も、新規性も、手法の妥当性も語れる。研究室や学会では、研究の学術的価値や位置づけについて、日々説明し続けている。
それなのに、分野外の人にこう聞かれたことはありませんか?
「それで、その研究は何が面白いの?」
「その研究は、どんな意味があるの?」
「なぜそのテーマに取り組む価値があるの?」
その時みなさん中の多くは、こう感じるのではないでしょうか?
「自分の説明の仕方に問題があるのではないか」
「まだ研究が未完成だからではないか」
結論から言うと、自分を責める必要は全くありません。能力不足でも、研究が悪いわけでもないからです。
博士学生が陥りやすい説明の落とし穴
研究の価値を説明しようとするとき、しばしば次のような罠にかかってしまう人もいるのではないでしょうか?
- 背景説明が長くなりすぎる
- 専門用語が多くなりすぎる
- 結論を最後まで言い切らない
背景知識が無い人に対して背景をしっかり説明しようとする、研究者として誠実であるからこそ専門用語を使ってきちんと説明しようとする、研究がまだ途中だからこそ結論を断言することを避けがち…
すべては、みなさんがそれだけ研究に対して誠実でいようとすることの証のようなものです。ですが、分野外の聞き手にとってはむしろ、細かいところよりも大きな流れ・方向性・社会的影響などから研究の価値を理解する方が簡単です。
要は、自身が説明している「価値」の種類と、求められている「価値」の種類が違うということ。
博士学生が説明しようとしている研究の価値とは
大前提として、博士学生の皆さんは、研究の価値を説明する努力は十分していると言えます。
- どこが新しいのか
- 先行研究と何が違うのか
- 学術的意義
- アプローチの妥当性
こうした点を、博士学生は事あるごとに説明し、指摘を受け、修正を重ねています。
つまり、説明できていないのではなく、【特定の評価軸に基づく価値】を説明する訓練に強く最適化されている というのが現状です。
問題は「価値」そのものではなく、評価軸の違いにある
- 分野内での新規性
- 理論的・方法論的な貢献
- 学術的位置づけ
これらは、研究室や学会など、分野内研究コミュニティにおいて共有される価値です。
一方で、分野外の人や企業研究者が問いかけるのは、少し性質が異なります。
- なぜその問いを立てる必要があるのか
- その研究は、どんな見方を変えるのか
- 他の分野や社会と、どう接続しうるのか
評価軸の異なる問いに対しては、自分自身も評価軸を切り替えて、どんな説明が求められているか理解する必要があります。評価軸が変わると、そこで当然とされている前提条件も同じとは限りません。同じような問いかけに一見見えたとしても、その評価軸に合った答え方があるということなのです。
みなさんが戸惑うのは、研究における学術的価値とはまた異なる評価軸の問いに対して、思考を即座に切り替え回答を選ぶという経験が少ないからです。
「研究の価値」はひとつではない
みなさんが研究の価値を説明する際、誰に対しても同じ答え方をしていませんか?
ですが実際には、研究の価値には複数の側面が必ずあります。
- 分野内における学術的価値
- 他分野の研究者にとっての示唆
- 社会や産業との接点の発見
- 問題設定そのものが持つ価値
博士課程で研究を進める上では、まず、学術的価値を厳密に説明することが求められます。これは研究者として不可欠な訓練です。
ただし、助成金の申請書を書いた方は、「社会的意義」「インパクト」などを記述しなければならない場面もあったことと思います。こうした他の評価軸で研究を語る回路は、どうしても後回しになりがちなものです。
つまり、さまざまな側面からの価値を自分自身で整理しておくことが、自身の研究の新規性・独創性・面白さをさまざまな形で伝えるための基盤となるのです!
分野外に出ることで、研究の価値の複数の側面が見えてくるかも!
研究室や学会ではないところで、ご自身の研究を説明しようとすると、当たり前だと思っていたことが通じないことがあります。その時初めて、
- 自分の研究は、どんな問いに答えようとしているのか
- なぜこの方法を選択したのか
- 他の選択肢と比較してどこが特徴か
といった点を、「分野外の評価軸」で考え直す必要性が出てきます。
研究に対して誠実であるがゆえに、「断言できないことは価値として語れない」と、無意識にブレーキをかけてしまう人もいるかもしれません。
ですがこれは研究の価値を誇張しているわけではなく、むしろ、研究を別の角度から見直し、どこに意味があるのかを自分自身で確認する作業をするということなのです。最初からうまくできる人もいるかもしれませんが、多くの人にとってはやはり、普段から意識しておくこと、そして積極的に外の世界とのコミュニケーションの機会をつくることが、結局は近道となるでしょう。
- なぜその研究に取り組むのか
- それは何を前提にしているのか
- 他に方法はないのか・他の方法ではだめなのか
こうした問いは、研究の「正しさの否定」ではありません。研究の位置づけを問い直すためのものです。
研究の価値を説明できるようになると何が変わる?
研究の価値を、聞き手を意識して説明できるようになると、次のような変化が期待できるでしょう。
- 指導教員との議論がより構造的になる
- 研究テーマに対する納得感が増す
- 研究の方向性を主体的・戦略的に考えられるようになる
- キャリアについて過度な不安を感じなくなる
自分の言葉で、さまざまな形・視点で価値の説明ができるようになることは、その研究自体の発展、他者を巻き込んだ共同研究への発展、研究費の獲得など、研究者としての一層の成長・ステップアップに直結します。
研究インターンも「研究の価値の再整理」訓練の機会に!
研究インターンシップでは、企業の実際の研究開発チームに所属し、企業が実際に直面している課題に挑戦することになります。そこでは、さまざまな分野の専門家・技術者・実務家との協働・議論の連続です。
研究インターンシップでは、皆さん自身が企業での新しいテーマに【主体的に】取り組むことになります。もちろんそのテーマは、企業側から提案された課題をベースにしているかもしれません。ですが主体的に研究を進めるのは皆さんご自身です。テーマに取り組む際、研究計画時点、進捗報告、結果の報告時それぞれで、何故この切り口/手法を選択したのか、データの解釈・考察にどんな価値が見いだせるかなど、チームメンバーと議論・情報共有しながら進めなければなりません。思いもしなかった観点・考え方・視野に触れることで、さまざまな評価軸を持つことができるようになるでしょう!
インターンを通して気づいた考え方や視点を、是非自身の研究にも適用してみましょう。インターンを終える頃には、よりご自身の研究の位置づけをうまく問い直すことができるようになっているかもしれません。

また、研究インターンシップ実施中には、皆さんが普段大学で取り組んでいる研究内容の説明を求められるでしょう。日常的な雑談として、「どんな研究しているの?」と聞かれることもあれば、場合によっては研究発表の機会をいただけることもあるかもしれません。こういう場でも、他分野の専門家から共感を得られるかどうか、確認することができますね!
ぜひこうした機会を活用して、【真のコミュニケーション力】を鍛えてみてはいかがでしょうか??
まとめ|説明しにくさは、研究が成熟しつつある証拠でもある
博士学生のみなさんが、研究の価値を説明しにくいと感じるのは、珍しいことでも、否定的に捉えるべきことでもありません。
それは、
- 学術的価値を真剣に考えてきたからこそ
- 異なる評価軸に直面し始めたからこそ
生まれる感覚です。
研究の価値は、最初から一つの形で存在するものではありません。
評価軸が変われば、見え方も変わる。
もし今、「自分の研究の価値をうまく説明できない」と感じているなら、それは研究者として次の段階に進もうとしているサインかもしれません!
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